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【社会科】センター試験2019(現代社会)

 

【社会科】とタイトルについた記事では、主に社会科授業のネタになりそうなこと,社会科に関係する事柄について、へんぷくの思考を整理しています。教採の記事よりも備忘録的な性格が強いです。あくまで私自身の考えであり、また記事の内容は正確性に欠ける部分も多々あると思うので、その点ご了承ください。もし誤りやご意見などがあれば、コメントまでよろしくお願いいたします。

 

 

センター試験の「現代社会」の問題が公表されたので,早速ダッシュで解いてみました。

へんぷくは公民が専門だというのに,3ミスしてしまい,大いに反省しています。後で振り返ってみたら,間違ってはいけないような問題もありました……結構知識が曖昧なまま解いてしまったものもありました。本当に情けない……

(言い訳をすれば,採用試験が終わってからは,ずっと日本史・世界史に媚を売っていたので…来月はちゃんとやります……)

そんなへんぷくですが,一応それでも公民科が専門ということにしているので,法教育に関することを中心に,解いてみた上での感想(講評?)を書いていこうと思います。

 

1.いきなり出て来た国際経済……

第1問のリード文と問題を読んで,ヒヤッとした受験生も多かったと思います。いえ,少なくとも自分はヒヤッとしました。序盤に国際経済(+国際政治)はきついですね……しかも,問1でいきなり国際収支のはなし(金融収支)が出てきたりすると慌ててしまいます。国際分野は,なんやかんやで高校の授業で後回しにされがち(基本的に現代社会の教科書は政治分野→経済分野→国際分野)ですし,勉強自体もとっつきにくいです。問題自体は難しくなかったと思うのですが,ここで揺さぶりをかけてきたように感じます。(あまり書くとボロが出るのでもうこれ以上は書きません)

 

2.判例(裁判例)の話

今年は三菱樹脂事件ハンセン病強制隔離事件(第2問 問1),『宴のあと』事件,『石に泳ぐ魚』事件(第2問 問3),朝日訴訟,堀木訴訟(第3問 問4),非嫡出子相続分規定違憲判決,国籍法違憲判決,再婚禁止期間違憲訴訟判決(第4問 問1)の内容が選択肢で問われています。

メジャーなものが並んでいます。こうして並べてみると,結構な量に感じるのですが,「現代社会」の教科書が日本国憲法の内容を一通り扱っていることを考えると,このくらいの量にはなるのではないでしょうか。個人的には「違憲だったか,合憲だったか」で解けるような問題を出題しても仕方ない気はしているのですが,憲法の学習を大事にして欲しいというシグナルになっていると感じます。

ところで,新学習指導要領の新科目「公共」では,「現代社会」に比べて日本国憲法に関する記述が少なかったり,内容に変化が見られると指摘されています(その点に関しては,自由法曹団意見書を出したりしています)。今後「公共」の教科書が出て来たときに,憲法に関してどのような記述がなされるのか,またどのような試験が作成されるのか,注目しく必要があります。へんぷく自身は,新学習指導要領を読み直して,どのような授業をつくるのか考えていきます……

※「公共」と「現代社会」の記述の比較対照はこちらから見ることができます。

 

さて今回着目したいのは,三菱樹脂事件プライバシー権関連の判決(『宴のあと』事件と『石に泳ぐ魚』事件)です。

 

三菱樹脂事件は,いわゆる憲法上の権利を,私人間の関係に間接的に適用(民法1条や90条を解して適用)することを認めた判決になります。いわゆる「間接適用説」です(問題は,「私人間に直接適用」とあったので誤り)。

この前提として,三菱樹脂事件判決は,

日本国憲法は「もっぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり,私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。」(下線・赤字は筆者)

と述べています。憲法の条文を適用するにあたっての原則はこちらになります。中世~近代ヨーロッパにおける「憲法」の成立を踏まえつつ,ここは生徒に必ず押さえさせておきたい部分です。

 

さて,そうなると第2問 問3のプライバシー関連の事件も原告(書かれた側)VS被告(出版社・著者)における私人間適用の問題になってきそうですが,実はそうなりません。そのヒントが今回センター試験にありました。

第2問 問1の選択肢①

憲法によれば,行政機関が,出版前に,その表現内容を審査して,出版を差し止めることが認められている。」(下線は筆者)

これは,憲法21条2項前段の「検閲の禁止」を問うた問題だと思われます(選択肢は誤り)。ただし最高裁判所判決によれば,「検閲」とは,

「行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし,その全部または一部の発表の禁止を目的として,対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に,発表前にその内容を審査し,不適当と認めるものの発表を禁止すること」(税関検査事件判決)

と定義されており,相当限定されています。もし問題文の最後が「認められていない」となっていたとしたら,クレームが出てしまいます。

 

ところで,出版の事前の「差止め」は全面的に憲法によって禁止されているわけでなく,裁判所に訴え出ることによって可能です(なお『北方ジャーナル』事件判決で,裁判所による事前差止めは違憲ではないと示されています)。その際,裁判所は「プライバシー権」と「表現の自由」を比較衡量して差止めの是非を判断することになります。

 

本題に戻ります。なぜ(第2問 問3の)プライバシー関連の事件は私人間適用の問題にならないのか。実は『宴のあと』事件と『石に泳ぐ魚』事件とでは少し性質が違います。

 

①まず『宴のあと』事件は,そもそも「私人間での法的紛争」であり,憲法上の権利に関して(少なくとも直接は)争いにはなっていないです。本件では差止めは請求されず,出版社に対して謝罪広告と損害賠償の請求のみ(民事訴訟上の請求)がなされています。つこの判決はプライバシー権」を「あくまで私法上(不法行為上)の権利」として,「日本国憲法の個人と尊厳という思想」に求めているのみであり,正確には憲法上のプライバシー権そのものに関する判例ではありません(根本 2013)。したがって,私人間適用の議論は生じません。ただ,「プライバシー権」として「私事をみだりに公開されない」という権利として認めた点にこの判決は大きな意義があります。

 

②次に,『石に泳ぐ魚』事件では,損害賠償請求の他に,出版の差止め請求がなされています。先にみたように,出版の差止めは「裁判所」すなわち,国家機関が主体となって判断する事項になります。したがって,出版差止めにあたっては,出版社側の「表現の自由」や原告側の「プライバシー権」あるいは「検閲」にあたらないかどうか,を具体的に検討していくことが必要です。したがって,日本国憲法は「もっぱら国または公共団体と個人との関係を規律するもの」という原則に照らせば,当然出版差止めが請求されている事件では,私人間適用の議論は生じず,そのまま憲法問題が議論されることになります。

 

そんな感じで,憲法上の権利の私人間適用の話やプライバシー権,出版差止めの話をまとめてみました(疲れた…)。

 

※参考文献:

小山剛,2013,「私人関係と基本的人権――三菱樹脂事件」,長谷部恭男ら編『憲法判例百選Ⅰ〔第6版〕』有斐閣

曽我部真裕,2013,「プライバシー侵害と表現の自由――『石に泳ぐ魚』事件」,長谷部恭男ら編『憲法判例百選Ⅰ〔第6版〕』有斐閣

根本健,2013,「プライバシーと表現の自由――『宴のあと』事件」,長谷部恭男ら編『憲法判例百選Ⅰ〔第6版〕』有斐閣

 

 

3.法教育に関わる出題

今回,オーソドックス(?)な刑事法,民事法に関わる問題が多く出題されています。

第2問 問1

憲法によれば,刑事事件では,自己に不利な唯一の証拠が,本人の自白であった場合,有罪となりうる。(×)

第2問 問4

憲法によれば,犯罪行為の内容とそれに対して科される刑罰の種類および重さが,法律で明確に定められていなければならない。(〇)

憲法によれば,行為時に適法であった行為について,事後に刑罰を定めることで,遡って処罰することが出来る。(×)

③公訴前の段階の被疑者について,法令上,国選で弁護士を付ける制度が定められている。(〇)

④検察官が不起訴処分を行った場合,その処分の適否を民意に基づいて判断する検察審査会制度がある。(〇)

 第4問 問3

①当事者の一方が未成年である場合に,未成年者が単独で相手方とした契約は,取り消すことができる。(〇)

②当事者の一方が公序良俗に反する内容の契約を申し出た場合に,相手側がそれに同意するならば,その契約は有効である。(×)

③物の持ち主がその物を相手方に渡し,相手方がこれに対して対価を支払うことを約束する契約は,労働契約である。(×:売買契約)

④物の持ち主がその物を自由に使用したり,そこから利益を得たり,処分したりすることができるという原則は,契約自由の原則である。(×:所有権絶対の原則)

  第4問 問4

最高裁判所は,車両等に使用者らの承諾なく密かにGPS全地球測位システム)端末を取り憑けるGPS捜査には令状は必要としないとしている。(×:最高裁判所大法廷2017年3月15日判決

②刑事裁判では,判決によらず,裁判官の下で当事者が妥協点を見付ながら訴訟を終結させる和解が行われることがある。(×:民事訴訟の場合)

③無罪の確定判決を受けた者は,同一の事件について,再び刑事責任を問われることはないとする原則は,一事不再理と呼ばれる(〇:有罪であれば,再審がありうる)

④有罪の確定判決を受けた者を,ある一定の条件の下で,裁判をやり直して救済する手続きは,上告と呼ばれる。(×:再審)

 

刑事訴訟の原則や民法の原則について基本的な部分が多く問われています。特に第4問に関しては,「民法」「刑事手続き」について聞きます!ドンッ!という形で出題されていて,(個人的には)嬉しい所です。ただ受験生にとっては丸暗記となりがちな部分にも思われるので,一つ一つの事項を歴史的な背景や公平な裁判における重要性と絡めながら,「なぜ,この原則があるのか?必要なのか?」という所を教えられるといいな,と強く思いました。刑事手続きについては憲法と絡めて教えることができるので良いにしても,民法に関しては単独できちんと取り上げる必要性を感じます。

 

 

4・第3問の問5について

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正直この問題には,驚かされました。これを聞いてどうするのか…と。確かにこれらの手法を理解し,マスターしていることは非常に重要ですが,その手法とその名称を結びつけられた所で何にもならないわけです。むしろ別に名称は答えられなくてもいいわけです。せめて,「○○ということをしたい場合(状況)にはどういった手法を用いれば良いか」という問題にすれば良かったと思います。

確かに,学校の授業の中でこれらの手法を用いた学習を行ってきたかどうかを試すことは出来そうな問題ですが,「これじゃない」感が漂っています。

また,そもそも,これを現代社会の問題で聞くべきなのか…という疑問も残ります。

もしこれが,「アクティブ・ラーニング」を見据えた新しい試験への動きだとしたら,がっかりです。

 

 

今日はここまでです。全体として専門科目への理解がまだまだ浅いというのが露呈してしまいました(この記事を書きながら,正確性を期すべく,色々と文献を漁っていました)。 勉強しようと思います…何か内容に誤りや誤植,質問があったらお気軽にご連絡下さい。